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この物語は全てフィクションです。
記名してある場所、人物名、全てにおいて実在のものとは無関係です。
また、この作品は虐待という部分が沢山あります。
覚悟をお持ちの方だけお読みください。

1,―始まりはいつもここから
2,―心に刻まれた傷



+LAST LIFE―心に刻まれた傷




心に植え付けられた鎖

俺が大きくなろうとするとめり込んでくる

そして残るのは

堕落と言う地獄…




「おい、ガキ!もう一人はどうした!」
 容赦無く蹴りを入れられ、床に擦った腕から血がにじみ出る。
 相棒のケウィンが遅れているので俺に罰が下る。
 それでも耐えて働かなくては、 生きていけないから…。

母親はいない。
 五年前に他の男と駆け落ちをしたらしい。
 その時の俺はまだ5才で、顔もろくに覚えて無い、 親父が俺に虐待をしてきたのはちょうどその頃だった。
 そして、酒を飲む金が無くなって奴は借金をした、それで俺がここに売られた。
それから5年間、減ることの無い利息と、借金で、俺は奴隷のように働かせられていた。

「何ボーッとしてんだ!」
 工場長が容赦無く俺の腹に蹴りを入れた。
 俺は思わず吐いてしまった。

「ウッ…………」
 俺は無言のまま工場長を睨んだ。

「ほぉ〜、いつもより生意気じゃねぇかっ」
 工場長は俺の腹を何回も蹴りあげた。

「いいか、お前は親父の借金のかたなんだよ!利息分も含めちゃんと働きやがれ!」
 そう言いながら何回も蹴ったり殴ったりする。
 このサドがっ。

そう思いつつ、無抵抗のままいると遅れていた相棒が来た。
「あ、あの、すいません。ね、寝坊しました…」
 俺は思わず相棒と目が合ってしまった。

「さっさと行け!それとも殴られたいかっ!」
 相棒は俺との目をそらし、自分の持ち場へ走って行った。
 別に恨みはしないさ、この地獄で、他人を気遣っている方がおかしい。
「よし、此ぐらいで勘弁してやる。おい、そこのガキ。こいつを治療部屋に連れて行きな」


 そこは、治療部屋と言うには余りにもお粗末だった。
 ベッドが一つと少しの医療器具、消毒液さえない。
 俺はベッドの上に転がされ、目をつぶった。
 寒い冬が続く、このまま目覚めなければいいと思った。
 しかし、時は無情にも刻々と過ぎていった。


「さっきはごめん…」
 いつの間にか俺は寝ていたらしく外は暗かった。
 相棒のケウィンがベッドの横に立っていた。
「別に…、それよりお前今、夜だぞ。部屋抜け出していいのか?工場長に見つかったら殺されるぞ」
「大丈夫、《アニキ》が手伝ってくれた。ラストの看病してきますってね」
 通称アニキ、本名デリック。この工場で唯一、俺達子供の味方の大人だ。
 彼も小さいときこの工場に売られたが、その誠実な働き振りから工場長に認められ、労働者の立場から労働者を管理する立場になった。
今では、皆をまとめてくれるリーダーであり工場長の見ていないところでこっそり助けてくれる、誰もが尊敬する存在だった。
 しかし、代償は大きく、労働を免除する代わりに一生この工場から出てはいけないのだ。
たとえ、借金が終わっても、一歩も。

「何度、揺すっても起きないから、死んだかと思った。本当に看病するのはヤダからね」
明るく話すケウィンだが、奴も親に売られた。
 まぁ、ここに居るなら当たり前だかな。
 それに、ケウィンと言う名も本当は違う、みなここに売られたとき、名前は捨てられた。
 違う名をつけることで、自分の家への執着心をなくすためだった。
 俺にも本名があった。

 しかし、本名は忘れた。親父が俺に虐待をし始めてからは『おい』『そこの…』『キサマ』『お前』『ガキ』、俺は人扱いされなかった。
ここでもそうだが、あの親父の所よりは幾分かましだ、名前もあるし、仲間もいる…

「はい、ご飯。アニキがくれた」
 ケウィンはベッド座ると、ドロドロした冷スープと固くなった食パン一切れを俺に渡した。

「なぁ、僕達っていつ家に帰れるんだろう…」
 ケウィンが言った。
「バカかお前。俺達を売った親だぞ、俺は嫌だね。帰ったってまた売られるのがオチだ」

 パンにスープをつけ、食べながら話す。
「けど、俺が売られた後に生まれたって言う妹が心配でさ…。あの、親のことだから…」
 泣きそうな声で言った。
 ケウィンは優しすぎる。
顔も名前も知らない妹のことを心配するほどだから、それが奴の良い所なんだけどな。

俺はしょうがなく言った。
「大丈夫だって!悪いことは長くは続かないさ。な、いつか帰れるさ」

 泣く直前だったが、俺の言葉でついに泣き出してしまった。
「本当にありがとう…」

「当たり前だろ!だって、俺達は親友だからな!」

 その夜は自分たちの将来について語り合った。
 ケウィンは将来、妹と家を出て親に見つからない田舎なところで平穏に暮らしたいそうだ。
 俺は…歌いたい。
どこまで伝わるかは分からないけど、俺たちみたいに最悪な状況にいることを世界中に伝えたい。
 ここを出られないことは分かっている。
今までに脱走を試みたものは半死の状態までに殴られ、何の宛てもないことを知っていて外に放り出す。
放り出された奴は飢えで死ぬか、殴られすぎて死ぬか、ここにまた戻ってくるかだ。
 外の奴らは俺たちを助けない。見てみぬフリ、そういう奴らが頭に来る。
 そう。いつか、俺がみんなを自由にさせたい。
自由にするためには、歌で伝えるのが一番だ。

 けど、ケウィンと俺の友情は永遠に変わらない。


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